phosphorescence



 私は、この世の中に生きている。しかし、それは、私のほんの一部分でしか無いのだ。
同様に、君も、またあのひとも、その大部分を、他のひとには全然わからぬところで
生きているに違いないのだ。(太宰治「フォスフォレッセンス」)

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■□ 子燕に鼻の穴ある涼しさよ  大木あまり
鼻の穴は、口を閉じているとき、
呼吸するために使うもの。

口をあけている印象の強い子燕だけれど、
実際には、閉じている時間も長い。
口を閉じてえさを待つその間、
子燕は、その鼻の穴で呼吸をするのだろうか。
鼻の穴を出入りする空気の新鮮な冷たさ。
屋外で、自分が鼻呼吸をしたときの冷たさを
思い出して、子燕とふと、
感覚を同じくした気持ちになる。

いつも口を精一杯あけている子燕だからこそ、
「鼻の穴」がきわだって感じられるのだろう。

「涼しさよ」の「涼し」というひやひやとした把握には、
いのちを思ったときの一抹の心細さがあって、
「よ」という呼びかけには、
そんないのちへの、おしこらえられない親密がある。

最新句集『星涼』(ふらんす堂)より。
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■□ 頬杖や土のなかより春はくる  大木あまり
春が土の中から来る、というのは、
すこし独断の入った言い切り。
実際には、春はいろんなところから来るし、
いろんなところに感じられる。

でもここで「土のなかより春はくる」といったことで、
土中の種の見えざる芽吹きを、
なまなましく感じることができる。

卓に頬杖をついている主体の足元で、
ぐんぐんと押し上げるようにしてあがってくる生命エネルギー。
そのエネルギーの圧力が、頬杖の下へ向く力とどこかで
こつんとぶつかって、何か微妙な力の拮抗関係を
保っている。

最後に、これは伏流水のように効いている、
という程度のことだけど、
頬杖という語には、「杖」という字が潜んでいる。
杖は、土について歩くを助けるもの。
頬杖という行為にも、
どこか土の匂いが加わっているように感じられることが、
頬杖の作者の生命の匂いを
すこしだけ強くしているように思える。

最新句集『星の木』(ふらんす堂 2010年9月)より。
大木あまりさんの新句集、ずっとずっと待ってました。
俳句でありながら、ここまで自由とは。
作者の呼吸、俳句形式、季語、時代(読者)が、
ぜんぶ一体となったその奇跡的な気分が、
どんな句にもあるって、それはすごいこと。
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■□ 銀河濃し厨を占めるステンレス  小嶋洋子
ステンレスが厨の灯に照る鈍い輝きと、銀河の冴え冴えとした光。2つの光は、似ているような、異なるような。ステンレスは美しく見え、銀河は親しく感じられる。銀河とステンレスが隣り合う意味は、そんな、イメージの通い合いにあるのだろう。

「占める」の措辞も確か。ステンレス製の冷蔵庫や調理台のひしめくキッチン(個人宅というよりは業務用のほうがリアルかもしれない)が想像される。

第一句集『泡の音色』(2009.9 ふらんす堂)より。「跳箱の布の手ざはり冬旱」「泡のまま乾く石鹸春浅し」も好きな句。どちらも、「冬旱」「春浅し」という、モノではない季語の手触りを、上5中7のフレーズで、在るものにしている。
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■□ 恐龍の卵の模型露けしや  神戸周子
どこかの恐竜博でも見に行ったのだろう。

「露けし」という季語を取り合わせることで、恐竜の卵が、実際には草木の中、日の下で、露にまみれながら存在していた、そのなまなましさを感じることができる。

さらに、露に無常観を見るならば、恐竜という覇者も「盛者必衰の理」からは逃れられなかった、という感慨も生まれるか。

第三句集『展翅』(2010.7 ふらんす堂)より。
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■□ はつなつの瑠璃色卵とりくれよ   杉山久子
木にのぼって、巣をのぞきこんでいる少年をふと思った。
木のぼりというちょっとした危険も、
瑠璃色という鮮やかな色も、
夏のはじめのいきいきとした気分にぴったりだ。
「とりくれよ」の命令形(お願い、くらいかもしれない)にも、
夏の気分の大きさ・勢いがある。

「瑠璃色卵」以外はひらがなで表記してあるところも、
瑠璃色卵の存在感を際立たせている。

最新句集『鳥と歩く』(ふらんす堂)より。
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■□ このブログについて

このブログは、

僕はどんな夢を抱かなかったか

という、俳句鑑賞ブログを引き継いだサイトです。
以前使っていたサーバーがなくなってしまうということで、
こちらに引っ越してきました。

俳句の本や作品を中心に、
俳句について考える場所にしたいと思っています。

日常的なことについては

きつねの望遠鏡

に書きたいと思います。

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